- ロクロニウム
- ベクロニウム
- スキサメトニウム
- ネオスチグミン
- スガマデクス
このページを読むと解けるようになる(!?)問題
一般的な知識
- 2014-A22
- 2016-A7
- 2017-A46の一部
- 2018-B11の一部
- 2014-B16の一部
ロクロニウム・ベクロニウム
- 個別の出題なし
スキサメトニウム(脱分極性筋弛緩薬)
- 2014-A15の一部
- 2014-A22の一部
- 2017-A36
- 2017-A46の一部
筋弛緩拮抗薬
- 2014-A22の一部
- 2015-B5
- 2015-B18の一部
- 2017-A46の一部
筋弛緩モニタリング
- 2014-A21
- 2015-B6
- 2018-A42
- 2018-B17
- 2019-A13
麻酔において筋弛緩薬が必要な理由
乱暴な言い方をすると、動かれると麻酔科医も外科医も仕事がしにくいし危ないから😅、です笑
筋弛緩は麻酔の3要素(鎮静・鎮痛・筋弛緩)のうちの1つです。
- 術中の体動の抑制(動いてるよ💢!!)
- 気管挿管を容易に行う
- (気管挿管による)人工呼吸を安全に行う など
麻酔導入時は・・・
まずは麻酔導入時を考えてみましょう。意識がある状態でいきなり口をこじ開けられて、訳のわからない鎌みたいな道具を口に突っ込まれて喉にチューブを入れられようとすると・・それはそれは咳き込むだろうし、暴れてしまいますよね!
なので、特殊な場合(気道に問題があり意識下で挿管せざるを得ない状態など)を除いて鎮静薬(プロポフォールなど)で意識をとってあげた後に、筋弛緩薬を投与して気管挿管を行いやすいようにします。
手術中は・・・
手術中は鎮静薬(プロポフォールや吸入麻酔薬)と鎮痛薬(レミフェンタニルやフェンタニル)が適切に投与されていれば患者さんが動くことはあまりないため、必ずしもガッツリ筋弛緩薬が必要というわけではありません。ただし、通常十分な筋弛緩状態が得られていないと困る手術があります。それは開胸・開腹手術や腹腔鏡手術です。開胸手術で肺動脈周辺を触っている際にバッキングを起こすと血管を損傷するリスクがあり命に関わりますし、開腹中だと腸がせり出して手術になりませんし、腹腔鏡手術でも器具による内臓損傷を起こすことがあります。
筋弛緩薬を投与していても100%体動やバッキングを防止しようとするのはなかなか難しいのですが、適切な投与を行うことで大部分は防ぐことができます。
筋弛緩薬の種類
筋弛緩薬には脱分極性筋弛緩薬と非脱分極性筋弛緩薬の2種類があります。名前だけ聞くと難しく、実際筋弛緩薬の作用機序はわかりにくいです。
すごく簡単に説明すると、骨格筋の収縮にはアセチルコリンという運動神経の端っこから出る物質が必要です。そのアセチルコリンが適切に作用できないようにすることで筋肉が収縮できなくする→筋肉が弛緩する状態するのが筋弛緩薬です。
脱分極性筋弛緩薬(スキサメトニウム)
脱分極性筋弛緩薬は1つしかありません。スキサメトニウム(商品名:サクシン)がそれです。大昔は筋弛緩薬と言えばこれでした。ただ最近ではかなり出番は減っています😓
作用の特徴
すばり、素早く効いて素早く切れます。1mg/kgの投与で1分前後で気管挿管可能な筋弛緩を得ることができます。その後10分前後で筋力は90%程度回復します。これだけ聞くとなぜ使われなくなったのかと疑問に思うところですが、残念ながら色々と副作用があるんですね〜。
スキサメトニウムの欠点!
- 悪性高熱症を誘発する可能性がある
- 高カリウム血症を起こす(24時間広範囲熱傷、筋挫滅を伴う外傷などでは禁忌。透析患者では要注意)
- 徐脈などの不整脈を起こすことがある(特に小児)
- 眼圧や頭蓋内圧を上昇させる(眼外傷患者では禁忌)。
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スキサメトニウムには主に上記のような副作用があり、特に重要なものは①と②で、専門試験はもとより周術期管理チーム試験でも繰り返し問われています。細かな話はadvancedでお話したいと思いますが、とにかく悪性高熱と高カリウム血症については必ず覚えておいてください✏️!!
非脱分極性筋弛緩薬
日頃使用されているエスラックス(一般名ロクロニウム)はこの非脱分極性筋弛緩薬の代表的薬剤です。アセチルコリンがくっつくべきところに、邪魔するようにくっつくことで作用を発揮します。
ロクロニウム(商品名:エスラックス)
非脱分極性筋弛緩薬の中では一番新しいものです。今現在使用されている筋弛緩薬のほとんどを占めています。rocuroniumuの頭のroはrapid onsetの略で効果が素早く発現するという意味を持っています。
通常投与量の0.6mg/kgの投与で1.5〜2分程度で十分な筋弛緩が得られることが多いです。下記のベクロニウム(商品名:マスキュラックス)の場合は3〜5分ほどかかっていたことを考えると、使い始めた当初は衝撃的に速いな〜と思った記憶があります。
ベクロニウム・パンクロニウム
パンクロニウム(商品名:ミオブロック)はもう販売されておりません😅効果時間が長く、心拍数を上昇させるという特徴がありました。が、過去の話です笑
ベクロニウムはロクロニウムが登場する前に最も使用されていた筋弛緩薬です。商品名はマスキュラックス。ミオブロック(筋肉ブロック)もマスキュラックス(筋肉リラックス)も「名前の由来そのまんまやん😅」と思った記憶があります笑
筋弛緩拮抗薬
筋弛緩は術中にはとても有用なのですが、手術が終わり覚醒するに当たっては残存した筋弛緩状態が問題(誤嚥などの呼吸器合併症)となることがあります。そのためしっかりとした筋弛緩状態の拮抗が必要になります。
現在使用されている筋弛緩拮抗薬は主に以下の2つです。昔から使用されていたネオスチグミン(商品名:ワゴスチグミンやアトワゴリバース)と、比較的最近発売(2010年)されたスガマデクス(商品名:ブリディオン)です。
ネオスチグミン(昔からある)
薬価がとても安く、長年使用されてきた薬物です。
神経筋接合部においてアセチルコリンの分解を阻害ことで筋弛緩効果を拮抗します(アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼという酵素の阻害薬です)。
無視できない副作用があります。
- 以下の副交感神経刺激症状(ムスカリン様作用)を生じる。
- 徐脈
- 気管支痙攣
- 悪心・嘔吐
- 気道や口腔内の分泌物増加
上記の作用を予防するために通常アトロピン(抗コリン薬)を同時に投与します。このネオスチグミンとアトロピンの合剤が上で挙げたアトワゴリバースというプレフィルドシリンジ製剤です。
スガマデクスが登場した今となっては使用量は激減しているようですが、アメリカなどではまだまだ用いられているようです(スガマデクスの薬価約1万円💴と高いため)
ただし、作用には天井効果(それ以上投与量を増やしても効果が頭打ちになる現象)があるため、深い筋弛緩が得られている状態からの急速拮抗は不可能という欠点もあります。以下に挙げるスガマデクスには天井効果がないため、例えば麻酔導入直後の深い筋弛緩状態からでも急速に拮抗ができます。
- 上記の副作用に注意
- 副作用予防にアトロピンの併用をする。
- 作用には限界があるため、深い筋弛緩状態からの拮抗は不可能。
スガマデクス(2010年発売)
商品名ブリディオン。明るく醒めるからblight。ディはあまり意味がなくて、発売当初はオルガノン社が販売していたのでそのオンを組み合わせてブリディオン、と説明会で聞いた覚えがあります。
非脱分極性筋弛緩薬全般に有効ですが、特にロクロニウムに親和性が高いです。筋弛緩薬を直接包み込むように結合(包接という)して筋弛緩効果を失効させます。
初めて使用した時の拮抗の速さにはとても驚きました!さっきまで弱々しかったTOFが投与して1分程度でギンギンになったんです笑 まさに魔法の薬💊。ただし、上記の通り薬価が高いのが玉に瑕。
発売当初はアレルギーの心配もなく安全な薬です!っていう触れ込みだったのですが、ポツポツとアナフィラキシーの報告もあり油断はできません。
- ロクロニウムに親和性が高い。
- 素晴らしい拮抗作用。天井効果なし。
- 深い筋弛緩状態からでも急速に拮抗が可能。
- 筋弛緩状態に応じて投与量を増減させる。
- 頻度は高くないが、アナフィラキシーの報告もあり
筋弛緩薬投与における注意点
そんなわけで麻酔や手術に必要な筋弛緩薬ですが、気をつける点が2つ。
1つは適切な筋弛緩拮抗を行わない事による筋弛緩作用の残存。もう一つはアナフィラキシーです。
怖いアナフィラキシー😵
周術期にアナフィラキシーを起こしやすい薬物の筆頭は筋弛緩薬(1位)と抗菌薬(2位)です(その他造影剤や解熱鎮痛薬、局所麻酔薬、輸血など)。麻酔導入〜手術開始の間にアナフィラキシーを起こした、という話の原因はほとんどがこの両者のうちどちらかです。
幸いと言って良いのかわかりませんが、筋弛緩薬によるアナフィラキシーの場合は喉頭浮腫を起こしたりショックになったりする頃には気管挿管されていることが多いので、気道トラブルによる生命の危機は回避できます(循環管理は大変ですが)。
抗菌薬も手術室内で投与開始する場合はまだ良いのですが、病棟から投与しながら手術室に入室する場合は途中でアナフィラキシーの症状を呈することがあるため迅速な対処が必要になります(怖・・)。
スガマデクスによるアナフィラキシーのメカニズムはまだ確実にはわかっていないようですす。アナフィラキシーへの対応は別稿で特集します。