このページを読むと解けるようになる(!?)問題
⬇️ご覧の通り、出題数が多いのでしっかりおさえていきましょう!ᕦ(ò_óˇ)ᕤー
①輸血製剤の保存・保管、輸血準備、その他(前の投稿)
- 2019-A41
- 2018-A56
- 2017-A7
- 2017-A55
- 2017-B6
- 2017-B17
- 2016-A10
- 2016-B49
- 2014-A18
- 2014-B41
②各種自己血輸血(このページ)
- 2019-A41の一部
- 2018-A56
- 2016-A9
- 2016-B49の一部
- 2014-A19
③輸血副作用(このページ)
- 2019-A26(TRALI)
- 2018-A56(GVHD)
- 2017-A55の一部
- 2017-B17の一部
- 2016-B7(不適合輸血)
- 2015-B22
④異型輸血(このページ)
- 2019-A27
- 2015-B49
- 貯血式自己血輸血について
- 回収式自己血輸血の一般知識と禁忌について
- 等容積性希釈式自己血輸血について
- 大量輸血に伴う合併症・副作用
- 緊急時の輸血(異型輸血)について
- GVHDについて
- TRALIについて
各種自己血輸血について
自己血輸血には以下の種類があります。
- 貯血式自己血輸血
- 回収式自己血輸血
- (等容積性)希釈式自己血輸血
自己血輸血とは、「自分の血液をあらかじめ採取しておいて、手術など必要なときに輸血(戻す)方法」のことです。方法として上に挙げた方法が取られますが、①と②が一般的で③は日常的にあまり行われる方法ではありません。
では、なぜ血液センターには血液がたくさんあるのに、わざわざ自分の血液をとっておくのでしょうか?
その利点としては以下のような同種血輸血(通常の輸血)で起こりうる副作用・合併症を回避できることです。なので同種血輸血に比べて安全な輸血方法と言えます。
- 免疫応答による副作用が起こらない
- 感染(肝炎ウイルスや未知の病原体)が起こらない
- GVHDやTRALIが起こらない
- 不規則抗体の発生がない
- 貯血(採血)する際の微生物混入
- 保存血の取り違え(今は照合がシステム化されているため起こる可能性は低いが)
貯血式自己血輸血
自己血輸血の中では最も一般的に行われている方法です。心臓血管外科や整形外科(関節手術など)、婦人科手術などでよく用いられます。当院では帝王切開を含む婦人科系の手術で用いられていることが多いですね。ちなみに小児でも貯血OKです。
手術前(2〜3週間前)に自己の血液をあらかじめ採っておきます。自己血採取の1回の上限は400mlです(体重にもよりますが、ここでは割愛)。また、すでに貧血があるような場合はもちろんNGなので原則としてHbが11.0g/dl以上が必要とされています。使用する際には古いものから順に使用します。
術前に採って保存しておくので、当然緊急手術などで使用されることはありません(貯血していた患者が緊急手術になるような場合はあるでしょうけど)。
適応としては循環血液量の15%以上の術中出血量が予想される場合です。また、日本人には少ないRhD(-)の患者さんや、その他のまれな不規則抗体を持っている場合には積極的な適応となります。
基本的には全血製剤として4〜6℃で冷蔵保存され(赤血球輸血、新鮮凍結血漿に分離させる方法もあり)、保存期間は35日間(以前は21日間)です。血小板濃厚液の保存期間が4日間だったことからも分かるように、血小板機能は失われています(赤血球と凝固因子はOK)。FFPとして保存する場合は1年間保存可能です。
保管中にサイトカインが産生されることがあり、投与後の副反応の発生に注意が必要です。


回収式自己血輸血
俗にいうセルセーバーですね。専用の装置を用いて術野からの出血を吸引し、洗浄した上で返血できるようにします。
適応としては800〜1,000mlあるいは循環血液量の20%程度の出血が予想される場合に適応となり、心臓血管外科手術や脊椎外科を含む整形外科手術などで用いられることが多いです。もちろん全てが回収できるわけではありません(出血量の40%程度)
回収洗浄後はヘマトクリット値として50%強の洗浄赤血球(血小板も少し残る)となります。凝固因子は含まれません。
回収式自己血輸血の禁忌としては、悪性腫瘍手術(癌細胞を含む可能性)、帝王切開術(羊水成分を含む可能性)、皮膚の外傷手術(吸引部に感染がある可能性)などでは禁忌とされていますが(2014年の試験では出題あり)、実際に使用されていることもあるそうです。





(等容積性)希釈式自己血輸血
あまり一般的ではありませんが・・。
手術前に血液採取(400〜800ml)後に代用血漿(HESなど)を急速輸液します。出血量が1,500mlあるいは循環血液量50%程度までの出血が予想される場合に適応となります。
利点としては、術中に出血する血液がすでに希釈されていることなどです。重篤な心疾患患者などでは禁忌です。
凝固因子、血小板共に補充可能ですが、冷蔵保存されるため血小板機能はあまりあてにならないかもしれません(試験では血小板補充可能になっています)。





自己血輸血まとめ
[貯血式]
- 循環血液量の15%以上の出血が予想される場合に考慮される。
- 心臓外科、整形外科、婦人科などでよく使用される。
- 採取の上限は1回400ml(2〜3回採取することがある)。Hb11.0g/dl以下はNG
- 保存は4〜6℃で35日間まで(赤と白に分けた場合、赤は42日間、白は1年間)
- 血小板機能は失われる。
- 保管中にサイトカインが産生され、投与後に副反応を起こすことがある。
- 緊急手術では使用できない。
- 使用時は古いものから順に使用する。
[回収式]
- 800〜1,000mlあるいは循環血液量の20%程度の出血が予想される場合に考慮
- 心臓外科、整形外科などでよく使用される。
- 回収洗浄血はヘマトクリット50%強の洗浄赤血球
- 凝固因子は含まれない。血小板はある程度残存。
- 悪性腫瘍手術、帝王切開術、皮膚外傷手術では一応禁忌
[希釈式]
- あまり一般的ではないが・・
- 凝固因子・血小板の補充も可能
輸血合併症と異型輸血
手術には欠かせない同種血輸血(普通の輸血)ですが、副作用など色々と問題もあります。以下に代表的なものを挙げて簡単に紹介します(詳細はadvancedにて)
また、輸血副作用(発熱や呼吸困難やアレルギー反応など)を起こした場合には、適切にカルテに記録しましょう。


- 急性溶血性輸血副作用(不適合輸血)
- TRALI(輸血関連肺障害)
- GVHD(移植片対宿主病)
- 電解質異常(高カリウム血症、低カルシウム血症)
- 低体温(特に温めない状態での急速輸血)
- 凝固障害
- 代謝性アシドーシス
急性溶血性輸血副作用(ABO型不適合輸血)
現在は照合システムがかなりしっかりしてきているので発生数は減少していると思いますが・・。輸血の副作用の中では一番ヤバイやつです。原因は人為的ミス(手書き伝票運用で記入ミスや血液取り違えなど)や技術的ミス(検査時のミスなど)があります。
たとえ他院で血液型が検査されていても、もう一度検査を行うべきであり、その検体採取の場合、患者の眼前でラベリングすることが検体取り違えを防ぐのに有効な方法です。
上に挙げた希釈式自己血輸血の場合、手術室から採取血液を出さないので、この不適合輸血は起きないという利点があります。
血管内溶血が起き、最終的にショック、腎不全、DICを起こし、最悪死亡します😓
起こさないことが大前提ですが、起こしてしまった場合の対処が重要です。すぐに輸血中止とともに輸液ラインも交換、十分な輸液とともに利尿薬の投与やDICを呈している場合はそちらへの対処も行っていきます。詳細はadvancedで記載します。
TRALI:輸血関連肺障害
Transfusion Related Acute Lung Injuryの略です。実際に見ることはそんなにないかもしれませんが、試験的にはよく出ます!
これも詳細はAdvancedに譲りますが、下記のポイントを抑えてください。
- 免疫学的機序が主要な原因とされている。
- 輸血後4〜6時間程度で発生しやすい(ピークは6時間程度)
- 経産婦由来の新鮮凍結血漿でリスクが高い。
- 肺の血管透過性が亢進し、両側の肺浸潤影を呈する。ただし、非心原性の肺水腫。
- 比較的予後は良好であり、96時間以内に改善することが多いが、米国での輸血関連死亡の原因では最多!
- 治療は人工呼吸含めた対症療法
②はあくまで血管透過性が亢進しているから肺水腫を起こしているのであって、左心不全の際に生じる肺水腫(心原性肺水腫)とは違いますよーということです。
ARDSなどに比べて比較的予後は良好とされていますが、2019年の試験で出題では「予後が良好である」が×になっているので注意しておいてください。
GVHD:移植片対宿主病
名前は有名(?)ですが、平成12年以降輸血が原因のGVHDは発症していません。その理由は徹底した予防策です。その予防策は、血液製剤への放射線照射です(前の投稿の「Ir」のところで説明しましたよね)。
原因は輸血血液中に含まれる供血者由来のリンパ球であり、このリンパ球が輸血された患者の体内で増殖し組織を攻撃してしまうことで起こります(怖)。汎血球減少を起こし最終的には重症感染症で死亡してしまいます。
全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤で放射線照射が行われますが、新鮮凍結血漿にはリンパ球が含まれないため照射は不要です(製剤を見てみてください。Irと書かれていないはずです)
その他の合併症(特に大量輸血の場合)
低体温
輸血製剤のところでも少し述べましたが、冷蔵されていた赤血球濃厚液を急速に輸血すると当然ですが冷たい液体が身体中を駆け巡るのですから、体温が低下します。また、低体温になると不整脈の原因にもなりますので、必ずホットライン等で加温しながら輸血してください。

凝固障害
赤血球濃厚液を大量輸血した際に生じます。少々の輸血では生じませんが、赤血球濃厚液には凝固因子を含んでいませんから、大量に輸血することで血液が希釈され(希釈性の)血液凝固障害を起こします。大量輸血になる場合には適切に新鮮凍結血漿や血小板輸血が必要になってきます。
電解質異常
みなさん、血液ガスなどで輸血前と輸血後の電解質の変化を見たことありますか?見たことがなければ、ぜひカリウムとカルシウムの値に注意して見てみてください。少量の輸血ではあまり変化がないかもしれませんが、比較的大量になると顕著に変化がみて取れます。
カリウムは上昇、カルシウムは低下します。
カリウムが上昇するのは、製剤内で徐々に溶血が起きて赤血球内のカリウムが漏れ出ていることと、特に急速輸血を行った時(ポンピングなど)にはルート内で機械的に赤血球が破壊されてカリウムが漏れるからです。
カルシウムが低下するのは、血液製剤の中に添加されているクエン酸が輸血後にカルシウムと結合してしまうためです。
異型輸血
最後に異型輸血について。
異型輸血とは異なる血液型の血液を患者に輸血することで、原則として緊急時に限られます。「輸血療法の実施に関する指針」には以下のように記載されています・
「出血性ショックのため、患者のABO血液型を判定する時間的余裕がない場合、緊急時に血液型判定用試薬がない場合、あるいは血液型判定が困難な場合は、例外的に交差適合試験未実施のO型赤血球濃厚液を使用する(全血は不可)。なお、緊急時であっても、原則として放射線照射血血液製剤を使用する」
投与の優先順位の表を載せておきますのでご参照ください。
患者血 | 赤血球濃厚液 | 新鮮凍結血漿 | 血小板濃厚液 |
A型 | A>O | A>AB>B | A>AB>B |
B型 | B>O | B>AB>A | B>AB>A |
AB型 | AB>A=B>O | AB>A=B | AB>A=B |
O型 | Oのみ | 全型適合🤗 | 全型適合🤗 |
緊急時に血液不明患者に投与しても良い血液はO型のみです(赤血球表面にA、Bの抗原を持たないから)!