「昇圧薬」に引き継いて今度は降圧薬です。
血圧を下げるためには・・・
前投稿では血圧を上げるためには、「前負荷を増やすか、心拍出量を増やすか、後負荷を上げるか」と書きましたが、血圧を下げるためにはその逆のことが必要です。つまり、前負荷を減らすか、心拍出量(心収縮力×心拍数)を減らすか、後負荷を下げるか、です。
結局よく使用される降圧薬は、心収縮力を下げる、心拍数を下げる、末梢血管を拡張させる(後負荷を下げる)のどれかあるいは複数の機序を合わせ持っています。ここでは以下の降圧薬を紹介します(他にもプロスタグランジン製剤などがありますが、今後紹介していこうと思います😅)。
- カルシウム拮抗薬(ニカルジピン、ジルチアゼム、ベラパミルなど)
- β受容体遮断薬(ランジオロール、プロプラノロールなど)
- 冠血管拡張薬(ニトログリセリン、ニコランジルなど)
周術期管理チーム試験では、ランジオロールが脈拍数を減少させることと、ニカルジピンが反射性に頻脈を起こすこと、のみが問われています。試験の性格上、あまり薬物に詳しくは聞かないということでしょうか?🤗
1つ注意点・・・
一つ注意点ですが、確かに降圧薬を使用すると血圧や心拍数は下がるのですが、一番大事なのは血圧上昇や頻脈の「原因」をしっかりと見極めることです。特に降圧薬を使用しなければならない血圧上昇や心拍数上昇をきたすのは、褐色細胞腫の手術や、頻脈性の不整脈発作を起こした時などを除いてはほとんどが「不十分な疼痛」によるものがほとんどです。
昔はレミフェンタニルという強力な鎮痛薬がなかったため、術中の鎮痛は硬膜外麻酔を行っていない場合はフェンタニルの投与が一般的でした。そのため、投与量が不十分だったりすると血圧が急に上昇してしまうこともありました(特に脳外科の三点ピン固定をするときなどは冷や冷やしてました😅)。
現在は基本的には十分な鎮痛が可能なため、どちらかというと血圧は低下することが多いため降圧薬の出番は少なくなりました。「やばっ」という血圧上昇や頻脈を見た場合にはまずは適切に鎮痛がなされているか、と確認することが大事です!
各種降圧薬
カルシウム拮抗薬
代表的な薬物は上にも挙げた”ニカルジピン(商品名:ベルジピンなど)”、”ジルチアゼム(商品名:ヘルベッサーなど)”、”ベラパミル(商品名:ワソランなど)”です。内科領域では内服薬としてアムロジピン(商品名:アムロジン)が有名でしょうか。
その名の通り、血管平滑筋や心筋にあるカルシウムチャネルをブロックすることにより作用を発揮します。その結果、心筋収縮力の抑制、刺激伝導系の抑制(これにより心拍数が低下する)、血管の拡張が生じます。
同じカルシウム拮抗薬でもそれぞれ効果が強く出る部位と強さが違っていて、ニカルジピンは血管拡張作用が強い、ベラパミルは心筋抑制・伝導抑制が強い、ジルチアゼムはどちらの効果もありますが、それぞれ弱い、という特徴があります。
前述しましたが、ニカルジピンは血管拡張作用に伴い反射性に頻脈を起こすという特徴があります。そのため、すでに頻脈を呈している場合の降圧の際には用いるべきではない場合もあります。
β受容体遮断薬
βブロッカーと呼ばれるやーつです。降圧薬というよりは抗不整脈薬に分類されることが多いです(Vaughan-Williams分類のⅡ群)。
手術室で使用するβ遮断薬の代表はランジオロール(商品名:オノアクト)です。昔はプロプラノロール(商品名:インデラルなど)も用いられていましたが、作用が遷延したり、β1、β2受容体どちらにも作用する(選択性が低い)ため、最近ではあまり用いられません。
ランジオロールは超短時間作用性(そのため基本的に持続投与)であり、β1選択性が非常に高く使い勝手が良い薬剤です(薬価が高いのが玉に瑕ですが)。
周術期管理チーム試験としては、とりあえず「β受容体遮断薬は心拍数を低下させる薬」として覚えておいてください。状況的には頻脈性の心房細動や心房粗動、洞性頻脈、発作性上室性頻拍(PSVT)の心拍数コントロールによく用いられます。
冠血管拡張薬
その名の通り、心臓を栄養する冠動脈を拡張させる薬剤で、狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患患者に用いられます。代表的な薬剤はニトログリセリン(商品名:ミリスロール)や硝酸イソソルビド(商品名:ニトロール)、ニコランジル(商品名:シグマート)、上でも紹介したジルチアゼム(商品名:ヘルベッサー)などです。
手術室では冠血管拡張作用に加えて直接的な心筋保護作用を持ち、体血圧はあまり低下させないニコランジルが使用されることが圧倒的に多いのではないでしょうか?
ちなみにニコランジルはATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)を開口させることで効果を発揮します(詳しくはまた今度🤗)。