生理学

呼吸生理学分野① -basic-

奥深い・・奥深〜い生理学で、本を読むたびにほとんどの人が眠くなってしまう分野です(笑)🥱😪

が、やらないわけにはいかないし、勉強すると少しは臨床の見え方が変わってきて楽しくなる(?)かもしれない分野なのです。周術期管理チーム試験ではかなり基礎部分しか聞かれていませんので、頑張っていきましょう!!

このページを読むと解けるようになる(!?)問題

呼吸生理の基礎知識
  • 2017-A33
  • 2017-A42
  • 2015-A58
呼吸機能検査について
  • 2016-A6
  • 2015-A10
閉塞性・拘束性・混合性換気障害のマトリクス
  • 2017-B1
  • 2015-B1
  • 2014-B35

 

知っておくべきキーワード
  1. 換気血流比不均等
  2. 死腔(生理学的死腔・解剖学的死腔・肺胞死腔)、死腔換気率
  3. (肺内)シャント
  4. 閉塞性呼吸障害
  5. 拘束性呼吸障害
  6. 混合性呼吸障害

とりあえずこの用語くらいは意味を把握しておきましょう!嫌だろうけど!😅

知ってしまえば大した知識ではありません!とりあえずbasicでは言葉の意味というかイメージをつかみましょう

 

胸腔内圧について

胸腔内圧っていう言葉はよく聞くと思います。とりあえず「肺が入ってる空間」だと考えてください。

自発呼吸をしている場合、この胸腔内は「陰圧です(大気圧を基準とした場合)。息を吸おうとすると横隔膜が収縮して下に下がります。そうすると胸腔にはさらに陰圧になり、空気が肺に入り込んできます。息を吸うということはそういうことです。

安静時の息を吐き終わった時(吸う前)の胸腔内圧はおおよそ「ー2〜ー4cmH2Oくらいで、普通に息を吸い終わった時の圧はおおよそ「ー6cmH2O」くらいです。

努力性の吸気、例えば「大きく息を吸って〜」と言われた時や、全力疾走時など急いで息を吸った場合にはさらに陰圧にふれ、ー30cmH2Oくらいになります。

普通に息を吐いた場合には胸腔内は陰圧のままですが、呼吸機能検査の時のように一気に吐いた時(努力性の呼気)には軽度陽圧になります。

 

これが人工呼吸器を使用している時には、空気を肺に押し込まれるので胸腔内は陽圧になります。陽圧換気に関しては今後取りあげます。

要点まとめ
  1. 自発呼吸時の胸腔内は陰圧
  2. 安静時の自発呼吸呼気時の胸腔内圧はー2〜ー4cmH2O
  3. 安静時の自発呼吸吸気時の胸腔内圧はー6cmH2O
  4. 努力性の吸気時にはー30cmH2Oくらいになる
  5. 努力性の呼気時には胸腔内は軽度陽圧になる

換気血流比不均等(V/Qミスマッチ)

一度くらいは聞いたことありますかね?(研修医は学生の時一度は勉強してるはず!)。

息を吸うと空気が肺胞まで到達して、肺胞を取り巻く毛細血管との間で酸素と二酸化炭素の交換が行われます。換気量と流れている血流の量がちょうど良い具合(V/Q=1.0)だと何の問題もありません。V(本当はVの上にドットがつきます)が換気量、Q(本当はQの上にドットがつきます)が肺血流量です。

ちなみにこのガス交換は「拡散」により行われます。拡散は濃度勾配に影響され、濃度が高い方から低い方に移動します。酸素と二酸化炭素では拡散のスピードが違っていて、二酸化炭素は酸素よりもずっと拡散がしやすく、瞬時に毛細血管と肺胞の間の二酸化炭素分圧は平衡に達します。

健常人で安静時には肺全体でV/Q=0.8〜1.0くらいです(ということは1分間の換気量が5Lだとすると、肺血流量が6Lくらいですね)。肺全体でと言ったのは理由があって、場所によっては換気の方が大きい部位もあり、血流が大きい部位もあってV/Qはまちまちなのです。ただ全体としてはちょうど良い具合に釣り合っています。

このバランスが悪いと低酸素血症や高二酸化炭素血症など都合が悪いことが起こります。低酸素血症の原因の多くはこのミスマッチによるものです

例)立位の状態では、血液は重力により上の方の肺よりも下の方の肺に分布しやすくなります。そのため、上の方の肺では換気が血流よりも過剰(V>Q)になり、下の方の肺では血流が換気よりも過剰(V<Q)になります。換気も重力の影響を受けますが、血液の方が比重が遥かに高いためその影響は血液の方が大きくなります

死腔(V>Q or V/Q>1)

死んだ腔とは穏やかではないですが・・笑。

細かなことを言うと、換気と血流を比べた時、換気が過剰になっている状態を死腔換気と言いますが、簡単に言うと空気は行ったり来たりしてるけど、そこに酸素とか二酸化炭素を受け渡しをするための血流が存在しない(または少ない)ところのことです。

例えば気管を思い浮かべてください。気管はただの空気の通り道です。そこでは酸素や二酸化炭素などのガス交換は行われません。ガス交換が行われるのは呼吸細気管支〜肺胞です。それまでの鼻腔・口腔〜口咽頭〜気管・気管支〜終末細気管支まではぜ〜んぶ死腔です(気管挿管されていれば、吸気回路と呼気回路の合流部(Yピース)〜人工鼻や気管チューブ〜終末細気管支までが死腔になります)。

健常成人の場合、自発呼吸の時は大体その容量(死腔換気量)は150ml程度です。一回換気量が500mlくらいだとするとおよそ30%くらいが死腔換気量になりますね。この死腔換気量を1回換気量で割ったものを死腔換気率と呼びます。

ちなみに死腔を表すアルファベットはVDです。DeathのDです。

解剖学的死腔と肺胞死腔

上で挙げた鼻腔や喉咽頭や気管などは誰もが持っており、解剖学的死腔と呼ばれます。この量は基本的に一定です。

これに加えて肺胞死腔とは、本来はきちんとしたガス交換が行われていた肺胞だったものが、肺気腫(肺胞構造が破綻している)や肺塞栓(肺胞に向かう血流が途絶している)などにより相対的に換気の方が多くなっている場所のことです。

この解剖学的死腔と肺胞死腔とを合わせて生理学的死腔と呼びます。肺疾患がない場合、肺胞死腔はそんなに存在しないため、解剖学的死腔がほぼ生理学的死腔になります。

死腔が増大する疾患

上で挙げたように、肺胞構造が破綻してしまう肺気腫や肺血流が減少してしまう肺塞栓が代表的な疾患です。また、高度に心拍出量が低下した場合も相対的に換気の方が大きくなってしまうため、死腔が増大します。

死腔が増大するということは、体の中で発生した二酸化炭素を捨てられない領域が増えるということですから、血中の二酸化炭素分圧(PaCO2)は上昇します。

補足ですが、陽圧換気により肺胞が過伸展してしまう場合は血流が正常でも相対的に換気が大きくなってしまうため死腔が増大する要因になります。呼吸器設定は適切に!

 

シャント(V<Q or V/Q<1)

簡単に言うと血流はあるのに、そこに肝心の空気が来ていない状態のことです。代表的な疾患としては無気肺や肺水腫などがあります。

無気肺では肺胞が潰れてしまっていますし、肺水腫では肺胞が水浸しになってしまっていますので想像しやすいと思います。

無気肺などが生じると、体から戻ってきた酸素が少ない(本来は肺胞の周りの毛細血管で酸素をもらえるはずだった)血液が、そのまま肺静脈→心臓に行ってしまい、結果として酸素が少ない血液が身体中に回ってしまいます。

シャントは低酸素血症の原因の中でも主なものです。

シャントが増大する疾患

無気肺、肺水腫、肺炎、重症の気管支喘息などがあります。

また、疾患ではありませんが、肺の手術の場合に行われる一側肺換気(片肺換気あるいは分離肺換気とも言う)は片方の肺をわざと「大きな無気肺」にしてしまう手技です。この場合は無気肺ですので、シャントになります。

 

ここまでの要点まとめ
  1. ガス交換は拡散で行われ、二酸化炭素の方が酸素よりも拡散しやすい。
  2. 換気も血流も重力の影響を受ける(血液の方が比重が高いため、立位時、換気血流比は肺底部で小さくなる)
  3. 健常人の場合は換気血流比は0.8〜1.0くらい。
  4. 死腔とは「換気はあるが血流がない(血流に大して換気が大きい)」ところ。
  5. 死腔には解剖学的死腔(一定)と肺胞死腔(無気肺や肺炎など病的肺で増加)がある。
  6. 非挿管時は口腔〜終末細気管支まで死腔。挿管時は吸気回路と呼気回路と呼気回路の合流部(Yピース)〜人工鼻や気管チューブ〜終末細気管支までが解剖学的死腔。
  7. 肺胞死腔は肺気腫や肺塞栓などで増加する。
  8. シャントとは「血流はあるが換気がない(血流に大して換気が小さい)」ところ。
  9. シャントは無気肺や肺炎、肺水腫などで増加する。
  10. 死腔もシャントも低酸素血症を呈する。死腔換気ではPaCO2の上昇も見られる。

代表的な呼吸機能検査

手術の前には様々な検査が行われますよね(過剰に検査されていることも多い印象がありますが・・・😅)

広い意味での呼吸機能検査は以下の通りです。

  1. スパイログラム(Flow-Volume曲線、肺活量)
  2. 動脈血ガス分析
  3. パルスオキシメトリ(経皮的酸素飽和度測定)
  4. Hugh-Jones分類(日常活動での呼吸機能の評価)
  5. 胸部X線写真

スパイログラムは重要な呼吸機能検査で、今後詳しくとりあげようと思います。とりあえず今回は、肺活量検査(以下の表)とFlow-Volume曲線で何がわかるかだけ覚えましょう。

肺気量分画
肺活量検査でわかること
  1. 努力性肺活量(FVC)
  2. 一回換気量
  3. 最大吸気量
  4. 予備呼気量

残気量は肺活量検査では測定できないため、機能的残気量(予備呼気量+残気量)や全肺気量はわかりません

フローボリューム曲線でわかること
  1. 一秒量(最初の1秒間で吐き出した量)
  2. 一秒率(一秒量を努力性肺活量で割ったもの)

これに加えて、実際に上で得られた肺活量を、年齢や体重から予測される肺活量で割ったものを%肺活量と呼びます。これも覚えておいてください。

これらの指標から得られた検査データを元に閉塞性換気障害、拘束性換気障害、混合性換気障害の分類を以下のように行うことができます。

閉塞性・拘束性の代表的疾患はよく問われる(特に閉塞性)ので確実に覚えておきましょう。

閉塞性換気障害(一秒率の低下)の代表的疾患
  1. 肺気腫
  2. 気管支喘息
  3. 慢性気管支炎 など
拘束性換気障害(%肺活量の低下)の代表的疾患
  1. 間質性肺炎
  2. 肺線維症
  3. 神経筋疾患 など

 

おすすめ呼吸生理・人工呼吸系書籍

読みやすいやーつ

生理学や人工呼吸器の本は、それこそあふれんばかりに存在しています。私は高校生の頃から参考書マニアだったので、今でも学会に行く度にいろいろ買い漁ってます😅

その中でも①と②の2冊は秀逸だと思います。先生と研修医・ナースの会話で話が進んでいくのですが、他の参考書で普通にさらっと書いているにもかかわらず、「そこがわかんないんだよん」というところから説明してくれています。そのためある程度わかっている人からすると、はっきり言って初歩的すぎるし、冗長な感じもすると思います。

ただし、学生の頃勉強をサボっていた研修医(笑)や看護学生・看護師さんがはじめに読むにはとても良い本だと思います。価格もかなりお手頃ですし、手にとってみてはいかがでしょうか?

③は血液ガスなどの本(今後紹介)でも有名な田中竜馬先生の本です。羊土社らしい装丁の本ですが😄内容は濃いわりに読みやすいです。な〜んの知識がなくてもスラスラ読めるかは疑問ですが、「呼吸生理」と名のついている本で読了できるレベルの本だとこれになると思います。優しい語り口調の本なのでぜひトライしてみてください!

ガチなタイプの参考書

ウエスト呼吸生理学入門は「ガチで硬派」な教科書です。この手の本にしては薄めの教科書なのですが、内容は濃い〜です。はっきり言ってしんどいです・・!勉強熱心な研修医や若手麻酔科医などのマニアックな質問にしっかり答えるためにはこれくらい必要かな・・・笑?

「やさしイイ呼吸器教室」は「ガチでイイ」です。特別やさしいとも思いませんが😅、表現がコミカルになされているところも多く、読みやすいです。読みやすい=名著というわけではもちろんないのですが、この本は間違いなく名著だと思います。分厚い(500ページくらい)のに値段も高くなく(5000円しません)、真面目に呼吸生理を勉強しよう!と思っている人にはとても良いと思います。

周術期管理チーム試験や麻酔科研修医が全て読まなければならないとは思いませんが、第2章の検査、第4章の治療、第5章の閉塞性疾患・拘束性疾患など、拾い読みするだけでも良いと思います!