生理学

中枢神経生理①(主に頭蓋内圧)-basic-

続いて脳血流量や蓋内圧に関してです。頭蓋内圧亢進症という言葉はよく聞くと思います。救急・集中治療、手術領域ではくも膜下出血、脳出血、脳腫瘍、水頭症など頭蓋内圧が亢進する疾患にはよく出会いますよね😓

周術期管理チーム試験では頭蓋内圧亢進症の症状や、頭蓋内圧を上昇させる薬剤や病態などについて簡単に聞かれていますので整理していきましょう。

このページを読むと解けるようになる(!?)問題

脳循環・頭蓋内圧など
  • 2019-B7
  • 2017-A45
  • 2017-B33
  • 2016-A11
  • 2016-B3
  • 2016-B4
  • 2015-B31
  • 2014-A6
  • 2014-A44
  • 2014-B32
  • 2014-B45

 

覚えておいた方が良い基礎データ

あんまり細かな数字を覚えろというのは好きではないのですが、それでもやはり最低限の数字は必要です。ここでは以下のおおよその値を頭の片隅に入れておきましょう。専門医試験でもよく聞かれています。

脳血流量

脳血流量の自動調節能

循環生理の部分でも上でもちょろっと触れましたが、重要臓器である脳の血流量は、一定の平均血圧の範囲で一定になるように調節されています。

正確にいうと一定の脳灌流圧が一定の範囲で一定に保たれます。脳灌流圧は次の式で表されますこの計算問題が2014年には出題されてます

[脳灌流圧]=[平均動脈圧]ー[頭蓋内圧]

つまり、血液を押し込もうとする先の圧力が高いと、抵抗を受けて十分に押し込めないというイメージです。頭蓋内圧は上でも書いた通り通常は10mmHg前後のため、それほど影響を与えないのですが、頭蓋内圧亢進症患者では10mmHgを大幅に超えてきますので、脳灌流圧が下がり、結果として脳血流量の調節範囲の下限を下回ってしまうリスクがあります。

また、これも前述しておりますが、コントロールされていない高血圧患者では自動調節能が働く血圧の上限も下限も高い方にシフトしていますので、低血圧には注意が必要です。

麻酔薬が脳血流量に与える影響

多くの麻酔薬は脳血流量に何らかの影響を与えます。そのうち代表的なものは覚えておきましょう。通常静脈麻酔薬(プロポフォールやバルビツレートなど)は脳血流量を低下させるのですが、ケタミンは増加させるので試験にはよく出題されます。

また、一般的に吸入麻酔薬は脳血管拡張作用のため脳血流量は増加します(増加の度合いは吸入麻酔薬ごとに違います)。

脳神経外科手術症例では頭蓋内圧が亢進または亢進しやすい状態にある患者さんが多いので、静脈麻酔薬の方が好んで用いられます

脳血流量を増加させる麻酔薬
  1. 亜酸化窒素(使用されることはもうあまりない)
  2. 揮発性麻酔薬(ハロタン≫デスフルラン>イソフルラン>セボフルランの順)
  3. ケタミン

二酸化炭素分圧が脳血流量に与える影響

これもよく問われますし、実際の周術期管理でも重要になってきます。

  1. 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が上昇すると脳血管が拡張し、脳血流量が増加する
  2. 過換気にしてPaCO2低下すると脳血管は収縮し、脳血流量が減少する

わざわざPaCO2を上昇させるということはしませんが、頭蓋内圧が亢進している場合に”やや”過換気にして少しでも頭蓋内圧を低下させるということは行われています。昔はかなり過換気にしていたようですが、最近では軽度〜ほぼ正常値のPaCO2を維持することが多いです。(脳出血や脳梗塞などで損傷を受けている部分では、血流の自動調節能が破綻していると言われており、過換気にして血管を収縮することで血流が減少し組織によりダメージを与える可能性があるため)。

 

頭蓋内圧亢進

上でも述べたように頭蓋内圧の基準値は10mmHg前後(5〜15や8〜12と記載されていることが多い)です。頭蓋内圧亢進状態とは、頭蓋内圧が20mmHgを超えた状態が5分以上続いた状態、と定義されています。

これが20mmHgを超えるような場合には何らかの介入(減圧手術など)が必要になるとされています。

頭蓋内圧を規定するもの

頭蓋内圧は脳の実質(80%くらい)、血液(5%くらい)、脳脊髄液(15%くらい)、間質(少量)のバランスで決まります。頭蓋骨という硬い容器に入っているためあまりゆとりがなく、どれかが増加すると容易に頭蓋内圧が上昇します(乳児で頭蓋内圧亢進が生じると、大泉門がまだ開いている場合にはそこが膨隆します)。

脳の実質、血液、脳脊髄液のどれかが増加した場合に頭蓋内圧は上昇します。主な原因としては、腫瘍や、血腫、浮腫や水頭症などです。

上で挙げた静脈麻酔薬のケタミンは脳血流量を増加させることで頭蓋内圧を上昇させる可能性があります。

頭蓋内圧が上昇を続けると脳ヘルニアと呼ばれる状態(脳の一部が本来あるべき場所からはみ出てしまう)になり(この場合瞳孔不同が生じます。病変がある方が散大します)、呼吸中枢(延髄にある)などを圧迫して呼吸が停止したりします。

頭蓋内圧亢進症の症状

主な症状は以下の通りです。

ちなみに上記症状の高血圧と徐脈が生じることをCushing現象といいます。

 

頭蓋内圧亢進症の(原疾患の)治療

頭蓋内圧亢進症を放置しておくと、最終的に呼吸が停止して死亡してしまうため、原因に応じた治療を行います。

腫瘍や血腫によるものであれば、開頭して腫瘍切除や血腫除去、場合によっては開頭したまま腫れが引くまで待ちます。

浮腫が生じていれば輸液量を調節したり、利尿薬を用いて水分を除去します。水頭症であればドレナージチューブを留置しますね(VーPシャントなど)。