合併症管理

アナフィラキシー③:アナフィラキシーの症状・診断

今回はアナフィラキシーの臨床診断を行うための症状・徴候についてのお話です。今日もアナフィラキシーに出会わなかったことに感謝🙏

はじめに「まとめ」

まとめ
  1. 主な症状は皮膚症状(紅斑・粘膜浮腫など)、循環器系症状(血圧低下など)、呼吸器系症状(気道浮腫、気管支痙攣など)!!
  2. アナフィラキシーショック、挿管されていない状態での上気道浮腫は対処が遅れると致命的☠️!!!「ちょっと様子を見ておこう」は厳禁🈲!
  3. 手術中は体が隠れていることが多いので、説明がつかない血圧低下や気道内圧上昇を見た場合には積極的に疑って皮膚症状が出ていないかを確認する(皮膚症状の出現頻度は最も高い)。
  4. とにかく素早い対処(気道確保やアドレナリン投与)を!(対処・治療は次回の投稿)

 

まずはざっくりと

アナフィラキシーの主要な症状と言えば上記のように

  1. 皮膚・粘膜症状(蕁麻疹、紅斑、血管性浮腫)
  2. 循環器系症状(血圧低下・ショック、頻脈or徐脈)
  3. 呼吸器症状(上気道浮腫、粘膜浮腫、気管支痙攣など)

です。この中で最も頻度が高いのは蕁麻疹と血管性浮腫(特に顔面に多い)です。

上記の症状の多くは主に血管透過性亢進による血管内液の多量の漏出で生じます。

最も注意しなければならないのは、上気道浮腫による窒息血管内液漏出による循環虚脱(ショック)です。これらは死に直結します!!!

また、アナフィラキシーの10〜20%程度は皮膚症状なし(例えば初期症状が消化器症状のみ)で発症するため、原因不明の瘙痒感や消化器症状を見た場合にはとりあえず疑うという姿勢が大事です。

以上のようにアナフィラキシーの標的臓器は、皮膚、肺、心・血管系、消化器系、中枢神経系など多岐にわたります。教科書にはよく、

皮膚症状+ABCD

  • A:Airway(上気道症状)
  • B:Breath(呼吸器症状)
  • C:Circulation(血圧低下や失神)
  • D:Diarrhea(嘔吐や下痢などの腹部症状)

として載っていますね。

ちなみに麻酔時の発症の9割以上は導入時(筋弛緩薬が多いため)に見られます。導入後の皮膚症状やショックにより気づくことが多いです。

 

アナフィラキシーの診断基準

アナフィラキシーの診断基準は過去の論文でいくつか出されていますが(教科書に掲載されているものも微妙に異なります)、日本アレルギー学会の出しているガイドライン(2014)によると以下の様なものになっています(元はSimons FE. et al. WAO Journal 2011;4:13-37, Simons FE, J Allergy Clin Immunol 2010; 125: S161-81, Simons FE, et al. アレルギー2013: 62: 1464-500 を引用改変)。※ガイドラインにはかわいい絵でわかりやすく掲載されています(リンクは⏬)

※以下の3項目のうちいずれかに該当すればアナフィラキシーと診断します。

  1. 皮膚症状(全身の発疹、瘙痒または紅潮)、または粘膜症状(口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)のいずれかが存在し、急速に(数分〜数時間以内)発現する症状で、かつ呼吸器症状(呼吸困難、気道狭窄、喘鳴、低酸素血症)、循環器症状(血圧低下、意識障害)の少なくとも一つを伴うもの。
  2. 一般的にアレルゲンとなりうるものへの曝露の後、急速に(数分〜数時間以内)発現する以下の症状のうち、2つ以上を伴う。
    • a:皮膚・粘膜症状(例は上記)
    • b:呼吸器症状(例は上記)
    • c:循環器症状(例は上記)
    • d:持続する消化器症状(腹部疝痛、嘔吐)
  3. 当該患者におけるアレルゲンへの曝露後の急速な(数分〜数時間いない)血圧低下
    • 平常時血圧の70%未満または下記
    • 生後1ヶ月〜11ヶ月<70mmHg
    • 1〜10歳<70mmHg+(2×年齢)
    • 11歳〜成人<90mmHg

アナフィラキシーのgrade

一口にアナフィラキシーといっても、皮膚症状が出るのみの軽いもの(grade1)からアナフィラキシーショックを起こして心肺停止まで至る重症のもの(grade4)まで段階があります。(Ring&Messmerの分類)

Grade1紅斑、蕁麻疹など皮膚症状のみ
Grade2皮疹や低血圧、頻脈、呼吸器症状、消化器症状など多臓器にわたる中等度の症状
Grade3多臓器(あるいは単一)の生命に危機を及ぼす重篤な症状(循環虚脱など)
Grade4心肺停止

日本アレルギー学会Anaphylaxis対策特別委員会の出しているアナフィラキシーガイドラインにはグレード1(軽症)、グレード2(中等症)、グレード3(重症)に分けて、それぞれの皮膚粘膜症状、呼吸器症状、循環器症状、消化器症状、神経症状と区分しているものもありますので、ぜひガイドラインやスライドをご一読ください!

→ 💡💡日本アレルギー学会 アナフィラキシーガイドライン

 

アナフィラキシー時の臓器症状

皮膚・粘膜症状(90%以上)

手術中の発生は気づかれにくいことも・・・

 

アナフィラキシーの症状では最も頻度の高い皮膚・粘膜症状ですが、見えるところでは特に顔面に蕁麻疹(地図上の紅斑・膨疹)が生じます。見えないところでは喉咽頭〜気管粘膜に浮腫が生じます(挿管されていなければ上気道閉塞で窒息しますし、挿管されていても気道内圧の上昇が生じます)。

また、外来や病棟では蕁麻疹がなく、皮膚の瘙痒感だけが出現することもあります。

頻度が高いため、アナフィラキシーの診断においても特に重要です。頭部にシーツがかかっいる場合などは皮膚症状に気がつきにくいため、原因不明のショックや心拍数異常、気道内圧の上昇などを見た場合には積極的に疑ってシーツをめくって確認することが重要です!

皮膚・粘膜症状の頻度は高いけれど・・・

 

皮膚・粘膜症状の頻度は75〜90%と高いのですが、もちろん出ないこともあります。つまり「皮膚所見がない=アナフィラキシーじゃない」ではありません。他のバイタル異常の原因(麻酔薬の影響、気管支痙攣、他の誘因による不整脈、心筋虚血、肺血栓塞栓症など)を考えながら診断していく必要があります。

循環器系症状:ショック

アナフィラキシーにおいて重症の低血圧(ショック)やそれに伴う意識障害、組織低灌流を伴う場合をアナフィラキシーショックと呼びます。

アナフィラキシーショックは、末梢血管の弛緩及び血液内液の漏出(血管透過性亢進)による循環血液量減少性ショック+血液分布異常性ショックに加えて、心原性ショック(アナフィラキシーでは心臓も標的臓器のため、心収縮力低下を伴う)を伴う混合性ショックです。こわ😫

 

循環血液量は重症の場合50%も失われる・・!!

重症のアナフィラキシーの場合の血液内液の血管外への漏出(血管透過性超亢進)は、アナフィラキシー発症10分程度で50%にも達すると言われています。これは突然2リットル以上の出血があったと同じようなものですから、それはショックになりますよね・・!😫迅速な大量輸液が必要とされる理由です。

また、遊離された大量のヒスタミンにより冠動脈の強い収縮が起こり、アレルギー性冠症候群(Kounis症候群)と呼ばれる冠虚血を起こすことがあります(麻酔科専門医試験でも出題がありました!)。さらに循環血液量の減少は心筋虚血に拍車をかけます。

心拍数は増加することも減少することもある

心拍数は多くの場合、循環血液量減少に対する代償反応(心拍出量を維持しようとする働き)として増加します(出血の時と同じですね)。また、多様なケミカルメディエータの放出によりさまざまな不整脈も生じます。

が、場合によっては徐脈になることがあります。この場合、特に皮膚症状を欠くとアナフィラキシーの診断が遅れる要因になります。

徐脈になる理由は名前が少し難しいのですが、急速な循環血液量の減少により生じるBezold-Jarisch反射と呼ばれる一過性の徐脈反射によると考えられています。

心筋自体も障害を受ける・・

心臓や血管周囲にはヒト心臓肥満細胞(HHMCs)と呼ばれる細胞が存在しており、アナフィラキシー時にはこの細胞からヒスタミンやロイコトリエンといったケミカルメディエータが大量の放出されます(脱顆粒)。

これらの物質により冠動脈の収縮(上記)や心筋自体も障害を受け、ショックを助長します。

 

呼吸器系症状

とにかく窒息による死亡を防げ!

最も恐ろしいのは、上気道の粘膜浮腫による窒息です。全身麻酔導入時に発生した場合には、気道狭窄が生じる前に挿管が完了しているはずですが、救急外来や病棟で発症した場合などは死に直結します。迷うぐらいなら挿管しましょう!!結局挿管しなくてもよかったねとなったらそれはそれで全然OKなのですから!!

躊躇していると、気道の浮腫がどんどん進行して挿管は困難を極めます。慣れない輪状甲状間膜穿刺なんてしたくないでしょう?!💣

挿管したあとは・・

挿管しても気管支痙攣や気道浮腫が改善しているわけではありません。通常の従量式換気では気道内圧が上昇し、それによる胸腔内圧の上昇は静脈還流減少をさらに悪化させます。また、酸素化能も悪化し低酸素血症を呈します。

適切な酸素投与と換気設定が必要になります。

迅速なアドレナリン投与を行う必要があります(詳細は次回の投稿)。

 

消化器系の症状

腹部症状が初発のアナフィラキシーもある!

皮膚症状や循環器系の症状で気がつかれることの多いアナフィラキシーですが、腹部症状をメインに訴える場合が25〜30%程度あります

症状としては下痢や腹痛、嘔気嘔吐などです。診断基準にも含まれますので、皮膚症状がないからと言って安易にアナフィラキシーを除外してはいけません。

 

 

参考文献・図書

1. ICUブック第4版 p223-225
4. LiSA 2017年10月 p1008-1012
10. 麻酔偶発症AtoZ p624-631
16. 麻酔科トラブルシューティングAtoZ p198-199, p206-207 p502-503
23. 麻酔科臨床SUMノート p148, p244-245