合併症管理

局所麻酔薬中毒①〜基礎知識・症状〜

 

以前「局所麻酔薬-basic-」でも取り上げましたが,スタイルも少し変わったので重複する部分はご容赦くださいm(_ _)m

はじめに「まとめ」

まとめ
  1. 局所麻酔薬中毒はナトリウムチャネルのブロックが全身性に強く生じたもの.
  2. 正確な頻度は不明.一応500〜10,000例に1例くらい(幅広).
  3. 代表的な局所麻酔薬の極量は覚えよう.

 

ひとーつ!局所麻酔薬中毒とはー😤

局所麻酔薬中毒→やりすぎたNa+チャネルの遮断

あまり細かなかことを言っても覚えてくれなさそうなのでざっくりですが,局所麻酔薬は細胞にあるナトリウムチャネルというゲートをブロックすることで作用を発揮するとされています.

普通に局所麻酔薬で局所麻酔した場合には,その名の通りその周囲のナトリウムチャネルにしか効果を及ぼさないため全身性の影響はほとんどありません.が,局所麻酔薬を多量に使用して徐々に血中濃度が上昇した場合や,誤って血管内にぶち込んでしまった場合😠には,全身性にナトリウムチャネルがブロック(主に中枢神経系,心臓)されてしまい,多彩な症状をきたします.症状に関しては次回の投稿で取り上げます.

試験でも局所麻酔薬中毒の症状は何イオンチャネルに対する作用によるものかはよく問われますので覚えておいてくださいね😊

 

局所麻酔薬中毒の頻度は?

はっきり言ってよくわかりません(笑).理由は以下のようなものがあります.

  1. 報告されている局所麻酔薬中毒自体の定義が今ひとつあいまい
  2. 局所麻酔薬を使用する手技はさまざま(皮膚の浸潤麻酔,脊髄くも膜下麻酔,硬膜外麻酔,末梢神経ブロック,抗不整脈薬としてのリドカインの投与など)であり,それぞれに使用する量も全く違ってくるため統一するのが難しい.

頻度が低いものでは数万例に一例,多いとなんと500例に一例(!)まで本当にさまざまです.

差し当たり,軽いものであればそこそこの頻度で起きているのだな,という理解で良いと思います.

 

局所麻酔薬の極量の目安を覚えよう!

現在臨床で主に用いられている局所麻酔薬としては以下のようなものがあります.

  1. リドカイン(キシロカイン®)
  2. メピバカイン(カルボカイン®)
  3. ブピバカイン(マーカイン®)
  4. ロピバカイン(アナペイン®)
  5. レボブピバカイン(ポプスカイン®)

以前にも述べましたが,極量とは「それ以上投与したらダメですよ。中毒とかの合併症になるかもよ」という量のことです.

極量以上を投与したからと行って必ずしも中毒症状がでたり重篤な状態に陥ったりするわけではありません。逆に,極量に達していなくても投与経路や患者の状態によっては中毒症状が出現することもありますのであくまで目安です(教科書によっても微妙に異なります).この極量,添付文書の基準最高用量とも異なり,レボブピバカイン,ロピバカインに関しては添付文書に記載がありません・・(ー ー;)

局所麻酔薬極量
リドカイン5mg/kg
メピバカイン5mg/kg
ブピバカイン2-3mg/kg
ロピバカイン3mg/kg
レボブピバカイン3mg/kg

局所麻酔薬中毒ではブピバカインが有名です.

 

局所麻酔薬中毒の症状

大きく分けると中枢神経症状と循環器系の症状がある.

上記のように,広範囲にナトリウムチャネルのブロックが生じることで多彩な症状をきたします.

症状は血管内濃度により異なります.濃度上昇が比較的低く抑えられれば軽症ですみますし,高ければ命に関わります。基本的に意識消失など中枢神経系の症状の方が不整脈や心停止など循環系の症状よりも先に出ます.

症状が以下のように段階的に生じるのは,徐々に血管内に吸収された,しかも典型的な例であり,血管内に大量に注入されたりした場合はいきなり意識消失,心停止が生じる場合もありますし,そうでなくとも重篤な症状が早期に出現する場合もあります

下に行くほど濃度が高く症状が重篤
  1. 口周囲や舌のしびれ(知覚異常)
  2. めまい🌀や耳鳴り👂⚡️、徐々に多弁や興奮状態
  3. 筋攣縮
  4. 意識消失
  5. 顔面・指先から始まる痙攣→徐々に全身性痙攣(強直性・間代性)
  6. 昏睡、呼吸停止
  7. 心血管系抑制(循環虚脱・不整脈、最終的に心停止)😱

ブピバカイン(マーカイン®)がやばい理由

数ある局所麻酔薬の中でも,重篤な中毒症状を起こすと蘇生が困難なものにブピバカインがあります.極量も2〜3mg/kgと低く設定されています.

局所麻酔薬中毒の重症度の指標としてCC/CNS比というものがあり,これは不可逆的な循環虚脱(CC:cardiovascular collapse)と中枢神経(CNS:central nervous system)毒性の代表である痙攣を起こす濃度の比です.

この値が高いということは,循環虚脱を起こしにくいということで比較的安全な局所麻酔薬と言えます.ブピバカインはこの値が2.0未満と低く(リドカインでは3.3〜3.9くらい),危険な局所麻酔薬と言えます☠️.

しかもブピバカインはナトリウムチャネルとの結合がガチガチに強固であり,中枢神経系,交感神経系,循環を強力に抑制してしまい,蘇生が非常に困難です.他に長時間作用性の局所麻酔薬がなかった時代には麻酔科医にとっても悩みの種でした😥

現在はその欠点が少ないロピバカインやレボブピバカインが登場しており,ブピバカインを比較的多量に投与することが無くなっています(よかった😊).

 

参考図書

  1. 麻酔科専門医認定筆記試験問題集
  2. 日本麻酔科学会リフレッシャーコース2015:局所麻酔薬
  3. 周術期管理チームテキスト第4版(p218, 282)
  4. あっという間にうまくなる,神経ブロック上達術改訂第3版(p217)
  5. 周術期超音波ガイド下神経ブロック改訂第2版(p122-125)
  6. 続・末梢神経ブロックの疑問〜実践編〜Q&A70(220-222)
  7. 末梢神経ブロックの疑問Q&A70(p12)
  8. 麻酔科医のための区域麻酔スタンダード(p46)
  9. ビジュアル麻酔の手引き(p433-435)
  10. 周術期管理の謎22(p169-177)
  11. 麻酔科臨床SUMノート(p66-67)
  12. 臨床麻酔マニュアル(p67-66)
  13. 麻酔への知的アプローチ第11版(p350-356)
  14. 麻酔への知的アプローチ問題集(p208-209)
  15. 新臨床麻酔スタンダードⅠ総論(p294)
  16. この1冊でわかる!麻酔科・ペインクリニック実践ハンドブック(p186-187)
  17. 麻酔科グリーンノート(p102-104)
  18. 麻酔科クリニカルクエスチョン101(p83-84)
  19. 麻酔科医のためのリスクを有する患者の周術期管理(p26)
  20. 麻酔偶発症AtoZ(p477-478)
  21. 術中合併症対策と術後管理指示(p289-292)
  22. 麻酔科医のための困った時の3分コンサルト(p274)
  23. 局所麻酔薬中毒への対応プラクティカルガイド(日本麻酔科学会2017)
  24. 日本臨床麻酔学会第37回大会教育講演 局所麻酔薬中毒