昔のブログでも非常に閲覧数👀が多かったステロイドカバーについてまとめておきます!
- ステロイドカバーの必要性について(口頭試験)
- どの程度の副腎皮質ステロイドを投与されていたら補充療法が必要になるのか(筆記試験)
- 具体的にはいつ、どの程度の副腎皮質ステロイドを投与するのか(口頭試験・筆記試験)
- ストレス下でのコルチゾールの分泌量(筆記試験)
- 急性副腎不全について(口頭試験)
ステロイドカバーってなんだ?
一言で言うと『副腎皮質ステロイド(コルチゾール)の補充療法』のことです。
副腎皮質ステロイドには糖質コルチコイド(コルチゾール)、鉱質コルチコイド(アルドステロン)、男性ホルモン(アンドロゲン)が含まれています。一般に「副腎皮質ステロイド」や「ステロイド」とだけ言う場合には主に糖質コルチコイド(コルチゾール)のことを指すことが多いです。(以下ステロイドはコルチゾールと同じ意味で用います)
ちなみにドーピング💪で有名なステロイドは「アナボリックステロイド💉」と呼ばれるもので副腎皮質ステロイドとは『別物』ですよ!💪💪
コルチゾールをはじめとする副腎皮質ステロイドは生体の恒常性維持にはとっても必要なホルモンで、手術や麻酔、感染症などのストレスに晒されると分泌量を増加させて対応しようとします(ストレスホルモンと呼ばれる理由)。ステロイドをある程度の用量で長期服用している場合は、そのようなストレスが生じた場合に分泌に支障を来してしまい不味いことになるため補充が必要になってきます。
コルチゾールの分泌の仕組みと補充療法の必要性
コルチゾールは副腎皮質ホルモンの名の通り副腎の皮質から分泌されます。その分泌をコントロールしているのがACTH(副腎皮質刺激ホルモン)と呼ばれる下垂体(の前葉)から分泌されるホルモンです(ACTHの分泌は視床下部から放出される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン:CRHの作用でコントロールされてます)。ホルモンホルモンって言ってると変な感じになりますね😅 ちなみに視床下部〜下垂体〜副腎皮質をまとめてHPA系といいます。
ところが、ある程度の量の副腎皮質ホルモンを外部から取り込む形で服用していると、下垂体や視床下部に「もういらないよ〜」とずっと言ってるような形になってしまいます。するとCRHやACTHの分泌が抑制されてしまいます。その状態が続くと副腎皮質自体のACTHに対する反応性が低下したり萎縮しちゃったりするんですね。
そうなってしまった状態で手術や感染のストレスが生体に加わってしまったらどうなるでしょう。本来なら「コルチゾール出動ー!😤」と指令(ACTHやCRH)が出されて兵隊(コルチゾール)が基地(副腎皮質)から出動するのですが、基地がボロボロ😞になってしまっているものですから、出てこないんですね。そうするとストレスと戦うことができずに、教科書的な典型的症状としては『低血糖』や『意識障害』『重篤な血圧低下(循環虚脱)』が生じてしまい命に関わる状態(急性副腎不全)になります。怖いですねー。ちなみに治療はステロイドの補充です(放っておくと致命的ですが、補充すると劇的に改善するようです)
なので、いつも使用しているステロイドに加えてそのストレスに見合った量のステロイドを補充してあげる必要があるということです。
- 副腎皮質は特にストレス時など、体の恒常性維持に重要なホルモン!
- 体の外からステロイドを長期間入れてると、いざという時(手術時などストレスがかかる場合)に自分で出す力が衰えるぞ!
- そうなったら、場合によっては急性副腎不全と呼ばれる重篤な状態になりうるぞ(低血糖、意識障害、ショックなど)!
- だから不足分に見合った補充が必要なのです。
どんな人が補充しなきゃダメなの?
生理的なコルチゾールの分泌量は1日あたり25〜30mgと言われています。手術などのストレスでは100mg/日以上のコルチゾールの分泌が生じるとされています(低侵襲手術では50mg/日程度、中等度〜高度の侵襲がある場合は75〜150mg/日以上)。
そのため、生理的分泌量以上のステロイドが投与されている患者やクッシング症候群など当該ホルモンの分泌系が抑制されている可能性のある患者では、生理的分泌量以上のコルチゾールを周術期に投与します。
このHPA系の機能の回復にはステロイド療法を中止して数ヶ月〜1年程度が必要とされており、それ以上間隔が空いていれば基本的に補充療法の必要はないとされています。
判断に悩むような場合は念のため少量のステロイドカバーを行うか、ACTHの刺激に対する反応性試験を行って副腎皮質からのコルチゾールの分泌の具合をチェックする必要があります。
また、ステロイドを投与されていてもそれが少量(プレドニゾロン5mg/日未満など)である場合や隔日投与の場合、ステロイド開始からあまり時間が経っていない場合(3週未満)などは特に補充を行わず、常用している分だけで良いとされています。
また、ステロイド投与は内服だけでなく、吸入(気管支喘息患者など)や外用剤としても使用されます。これらの患者でも使用量によっては上記のホルモン分泌系が抑制されている可能性があるため、カバーが必要になる場合があります。
- 過去1年間に2〜3週間以上生理的分泌量(25〜30mg/日)以上の副腎皮質ステロイドを投与されている患者
- 直近3週間以上にわたって生理的分泌量以上の副腎皮質ステロイドを投与されている患者
- クッシング症候群(医原性含む)など視床下部〜下垂体〜副腎皮質系のホルモン分泌が抑制されている可能性がある患者
- 迷う場合はACTH試験をして副腎皮質の反応性をチェック!
- 副腎皮質ステロイド療法が1年以上前に終了あるいは中止されている患者
- ステロイド投与期間が3週間未満の場合
- 現在も副腎皮質ステロイド投与を受けているが少量の場合や隔日投与の場合。具体的にはプレドニゾロン5mg/日以下(ヒドロコルチゾン20mg/日以下)の場合など。
- これらの患者では常用量(普段使用している量)のみの投与を行う。
どんな薬を投与するの?
一般的にはヒドロコルチゾン(商品名:コートリルなど)やコハク酸メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロールなど)などを用います。
ステロイドにはいろいろな種類があります。上であげたもの以外によく聞くものではベタメタゾン(商品名:リンデロン)やデキサメタゾン(商品名:デカドロン)などでしょうか。
これらはそれぞれ半減期や力価が異なります。ヒドロコルチゾンは半減期が短く(8〜12時間)、メチルプレドニゾロンは中等度(12〜36時間)、デキサメタゾンやベタメタゾンなどは半減期が長い(24時間以上)が長いです。力価については以下の通り。()内は商品名。
なのでヒドロコルチゾン100mgで行うカバーをコハク酸メチルプレドニゾロンで行う場合は20mgのように換算して行います。
- ヒドロコルチゾン(コートリルなど):1
- コハク酸ヒドロコルチゾン(サクシゾンなど):1
- プレドニゾロン(プレドニン):4
- コハク酸メチルプレドニゾロン(ソル・メドロールなど):5
- ベタメタゾン(リンデロン):30
- デキサメタゾン(デカドロン):30
実際にステロイドカバーってどうやるの?
昔(エビデンスと言う言葉すらあまりなかった時代)はステロイドカバーとして1日300mgものヒドロコルチゾンが投与されていた時代もありました。その後の研究などで大手術でも200mg以上のコルチゾール分泌はまれであることがわかってきてからはステロイドカバーの量は減少傾向になりました。
実際の急性副腎不全の報告がとても少ないことや、術後のショックなどの原因は多くは循環血液量不足によるものがほとんどであること、ステロイド大量投与による副作用(耐糖能低下、易感染性、ステロイド潰瘍など)の懸念もあることから、生理的分泌量以上のステロイドカバーの必要性には疑問がもたれているようです。
以下に手術の侵襲別に目安をあげておきます。昔はかなり細かなプロトコールがあったようですが、今はそこまで厳密には行われていないようです(心臓外科やPD以外だと念の為のヒドロコルチゾン100mg当日投与のみなど)。
INTENSIVIST2012Vol.4 No.2:術後管理(p360-363)にステロイドカバーの必要性に関するコラムが掲載されていますので、ぜひ御一読ください🤗
小手術の場合
当日朝に常用量を投与するのみで、特に補充の必要なし!
- 鼠径ヘルニアなど体表に近い部位の手術
- 消化管の内視鏡検査
- 局所麻酔で可能な手術
- 泌尿器科や産婦人科の小処置 など
中等度手術の場合
ヒドロコルチゾンとして術前に50〜75mg。その後漸減(翌日50mg、翌々日25mgなど)して1〜2日で常用量に戻す。
- 通常の開腹手術(胆摘や結腸切除など)
- 末梢血管手術
- TKAやTHAなどの関節手術 など
大手術の場合
ヒドロコルチゾンとして術前に100〜150mg投与。その後漸減(翌日50mg、翌々日25mgなど)して2〜3日で常用量に戻す。(メチルプレドニゾロンであれば1/5程度の用量)
- 心臓・大血管手術
- 膵頭十二指腸切除術や肝切除術などの大開腹手術