麻酔関連薬物

吸入麻酔薬②(各論)-basic-

このページを読むと解けるようになる(!?)問題

亜酸化窒素
  • 2017-A49
  • 2014-B19
  • 2014-B20
セボフルラン(前投稿と重複あり)
  • 2019-B55
  • 2018-B7
  • 2017-B11の一部
  • 2017-B4の一部
  • 2014-A20
イソフルラン
  • 2017-B4の一部
デスフルラン
  • 2017-A20の一部
  • 2017-B11の一部
  • 2017-B4の一部

 

亜酸化窒素の知識ってまだいるん?

前述の通り、配管すらない施設もあるようですが、手術室のエキスパートとしては知っておく必要がありますよー。

まずはおさらいと概要

前稿で出てきた内容は以下の通りです。

  1. 現在、唯一のガス麻酔薬
  2. 温室効果ガスの一つでその効果は二酸化炭素の300倍
  3. 大気中における半減期は約150年
  4. 成層圏に達するとオゾン層を破壊する
  5. 血液/ガス分配係数がデスフルランと同程度に小さい(0.47)
  6. MACは105%と高く、麻酔薬としての力価は低い
  7. 二次ガス効果がある

追加の知識としては以下のものがあります

  1. ガスは無色無臭
  2. 強い鎮痛作用を持つ
  3. 使用できない手術がある(閉鎖腔の増大・内圧上昇)
  4. 拡散性低酸素症を起こすことがある
  5. PONV(術後悪心・嘔吐)の原因となる
  6. 亜酸化窒素ボンベに関する知識

それでは、1つずつ見ていきましょう。

無色無臭のガスです

まぁ普通の気体はだいたい無色です。臭いがある気体は多いですが。

亜酸化窒素は無臭ですがなぜか臭いがすると思っている外科の先生を何人か見かけたことがあります笑。

覚醒が悪い患者さんがいた時に、若手の外科の先生に「ほら、まだ笑気の臭いがしてるだろ。まだ体から抜けてない証拠だ」などとウソを教えていた中堅の外科医がいました笑。若手の先生も「なるほど確かに」とか言ってました。多分それセボの臭いだと思うんですけど・・・

強い鎮痛作用を持つ

意外と亜酸化窒素を何のために使っているのかが分かっていない人が多い印象です。基本は鎮痛薬ですよ!歯医者さんでも使われていますね(濃度的にはあまり高くなさそうですけど。環境にだだもれだし・・・どうなんやろ)。
麻酔薬としての力価は低いので(1MACの効果を得るのに純笑気が必要)単独での全身麻酔は不可能です

使用できない手術がある(ぱんぱかりんになる)

これが一番大事かなと思います。血液/ガス分配係数が低かったことを思い出してください(0.47)。これが低いため血液に溶けにくく導入は速くなりますが、抜けるのも速いのです。どこに抜けていくかというと呼気からも当然抜けますが、体の中の気体がある「閉鎖」空間に抜けてしまうのです。そうするとその空間の増大・内圧上昇が起きてしまい、なんだか都合の悪いことになってしまいます。

通常はそのような空間はほとんどないのですが、そうした空間ができてしまう疾患があります。例えば気胸、腸閉塞、気脳症などです。なのでそのような疾患のある患者の麻酔では使用できません。腸閉塞ではなくても腹部外科手術の手術で亜酸化窒素を比較的長時間使用すると、腸管が張って来るんですよね〜。
また、特定の手術でも使用できないものがあります。代表的なものは鼓室形成などの耳鼻科の手術や、特殊な医療ガスを使用する硝子体手術などです。これは専門医試験でもよく問われています

補足としてこの亜酸化窒素、気管チューブやラリンジアルマスク(声門上器具)のカフにも拡散してしまうため内圧が上昇してしまうことがあります。もし使用する場合はカフ圧計をきちんとつけておきましょう!

拡散性低酸素って何?

亜酸化窒素を用いた全身麻酔終了後に起こる低酸素血症の原因の1つです。手術が終了して亜酸化窒素を停止した後でも、体の中にはまだ相当量の亜酸化窒素が残っています。そのため停止後もしばらくは血液から肺胞の中に戻ってきます。その時に酸素投与が不十分(すぐに空気だけの吸入にするなど)だと押しくらまんじゅう(古い・・?)のように酸素が追い出されてしまって(酸素分圧が低下)してしまうという現象です。

これを防止するために亜酸化窒素停止後も5〜10分間は高濃度酸素を投与しましょうということになっています。
もちろん亜酸化窒素を使用しなければ気にすることではありませんが

PONV(術後悪心・嘔吐の原因となる)

そうなるとしか言いようがないですが・・・笑。吸入麻酔薬の宿命ですかねぇ

亜酸化窒素ボンベと配管について

ボンベは見た事がある人がもうあまりいないかも知れませんが、「亜酸化窒素・医療用・ボンベ」の画像検索でたくさん出てきますので、確認しておいてください。

基本は「灰色」で一部が「青く」配色されています。亜酸化窒素ボンベの中は酸素ボンベなどと違って中に液体が入っています(臨界温度の関係で)。そのため圧力計では残量をチェックできないのでボンベ自体の重さを測ってチェックします(チェックしているところは見た事ないですが・・)。

壁(または天井)から伸びている亜酸化窒素の配管ホースは「青色」です(いつも見てますよね?)。

 

我らがセボフルラン(私はセボ大好き人間)

おそらく日本で最も使用されている揮発性麻酔薬です。デスフルランが出てしばらく経ちますが、まだ抜かれてないと思います(どうなんやろ)。例によっておさらいと概要を。

おさらいと概要

  1. 1MACは約1.7%
  2. 血液/ガス分配係数は約0.65
  3. 気道刺激性が少ないため緩徐導入(特に小児)に使用可能
  4. 気管支拡張作用を持つ

追加の知識としては、

  1. 生体内代謝率は3〜5%
  2. 腎障害が生じる可能性のある程度の無機フッ素が産生される
  3. ある種の二酸化炭素吸収剤との反応でコンパウンドAが発生する可能性がある

くらいです。

生体内代謝率は3〜5%。それって高いの?

高くはないですね。昔使用されていたハロタンなんかは35%(!)でしたから。そのためハロタンはハロタン肝炎と呼ばれる重篤な肝障害が問題となっていたようです(私は使用したことがありません)。それに比べるとセボフルランによる肝障害などの頻度はとても低いようです(試験でも問われています)。ただ、施設によっては肝障害がある患者や肝切除術などの場合はセボフルランを使用せず、イソフルラン(や今はデスフルラン)を使用しています。

また、腎毒性を生じるとされる濃度の無機フッ素が産生されるとされていることや、二酸化炭素吸収剤との反応によりコンパウンドAという腎毒性がある物質が産生されたりということがあるので、こちらも腎機能障害がある患者ではイソフルランやデスフルランを使用している施設があります。しかし、腎障害に関してはヒトでは実際にはほとんど問題になることはないようです。

 

イソフルラン

今はかなり使用頻度が減っているのではないでしょうか。

おさらいと概要

ここは少ないのでまとめます

  1. 1MACは約1.2%
  2. 血液/ガス分配係数は約1.4
  3. 代謝率はとても低く0.2%
  4. 気道刺激性があるため、緩徐導入は適応なし(気管支痙攣のリスクあり)

緩徐導入はムリ 。気道刺激性あり

デスフルランと同様に気道の刺激性が高く(刺激臭もある)緩徐導入には使用できない点です。逆に言えば、緩徐導入で使用できる揮発性麻酔薬は現在のところセボフルランだけ覚えておけば良いです。

生体内代謝率は低い

生体内での代謝率がとても低く(0.2%程度)、そのため肝臓や腎臓に毒性のある物質の生成がほとんどない点などがあります。

上述のように、後期レジデントだった頃に勤めていた某大病院では肝臓や腎臓の手術あるいは肝・腎機能障害がある患者の麻酔ではイソフルランを使用して(させられて笑)いたことを思い出します。長時間手術になると全然覚めないんだなこれが笑(長い肝切とかになると2時間くらい平気で覚めない・・)。

補足:余裕があれば、循環に対する作用として心拍数増加がある事を覚えておいてください。

 

デスフルラン・・名前怖すぎ😱

いい薬なんですが名前のイメージ悪すぎdeath。

日本においては最新の揮発性麻酔薬です(アメリカとかでは大分前に発売されてて、むしろセボの方が新かったりする)。商品名はスープレンで、発売当初は学会会場でスプーン🥄を配ってました・・(どこいったかなあれ)。

おさらいと概要

今まで出た知識としては、

  1. 1MACは約6.0%
  2. 血液/ガス分配係数は0.45と最低のため導入・覚醒が速い
  3. 気道刺激性が強く緩徐導入不可(イソフルランと同様)

追加知識としては

  1. 代謝率は揮発性麻酔薬中最低(0.02%!)
  2. 特殊な気化器が必要要電源🔋
  3. 急激な濃度上昇で交感神経刺激作用や気道抵抗上昇作用がある
  4. 単独でも筋弛緩作用を持つ(弱いけど)
  5. 消費量を抑えるため低流量麻酔に適している

などです。それでは見ていきましょう!

代謝率激低

代謝率は0.02%と揮発性麻酔薬中で最低です。ほとんど生体内で代謝されないため、肝機能や腎機能が悪くても問題がありません。ごくわずかに生じる代謝産物も腎毒性等ありませんので、かなり安全な麻酔薬と言えるでしょう。

特殊な保存容器と気化器が必要

(写真はドレーゲル社のFabius TIROに取り付けられている気化器です)。

写真を見てもらえればわかると思いますが、デスフルランの気化器はセボフルランの気化器と比べてかなり大きいです(不格好?笑)。しかも後ろにコンセントがついており電源に接続されています。これは何のためでしょう?

揮発性麻酔薬とは初めにもお話しした通り、常温(25℃くらい)で液体である麻酔薬の事ですが、何とデスフルランの沸点(気化する温度)は23℃くらいでほぼ常温です(ちなみにセボフルランは60℃くらい)。そのため通常のビンなどに保存して開栓すると沸騰したり噴出したりといった事が起こりえます。そのため、冒頭の写真のように特殊なアルミ製の容器に入れられています(外気との交通がありません)。

またそれに合わせて気化器も内部が約40℃、蒸気圧が2気圧になるような特殊な設計がされています(そのため電源が必要)。※厳密に言うと加熱を必要としないタイプもあるのですが、話がややこしくなるため、ここでは割愛します。

とりあえず低い沸点のおかげで特殊な容器と気化器が必要で、気化器には圧力と温度を調節するために電源が必要、ということを覚えておきましょう!

急激に濃度を上昇させてはだめよ

デスフルランは急激に濃度を上昇させると交感神経刺激作用による血圧上昇、心拍数上昇を起こす事があります。ただし、これは1.5MAC程度(9%程度の濃度)にまで上昇させた時の話です。通常はそのような濃度で使用することはないので、それほど気にすることはないです。

また、そのような濃度では気管支平滑筋収縮による気道抵抗上昇も見られる事があります。

ごく弱い筋弛緩作用がある

揮発性麻酔薬に共通の作用として「筋弛緩薬の作用を増強する」というものがあります。また、揮発性麻酔薬は単独でも弱い筋弛緩作用を持ちます。

今はスガマデクス(商品名ブリディオン)があるのでそれほど気になりませんが、それ以前は外科手術の閉腹時に「お腹が固い!」と言われて筋弛緩薬を追加するかどうかよく悩みました。その時に一時的にセボフルランなどを高濃度にして筋弛緩効果を期待する、というのをしていた先生もいらっしゃいました。

スガマデクス神😇(薬価高いけど)

デスフルランは低流量麻酔に再び光を当てた🚅

みなさん、低流量麻酔って知っていますか?詳しくは改めて取り上げたいと思いますが、総新鮮ガス流量を1L/分以下にして行う麻酔を指します。最近はあまり他の先生の麻酔を見る機会がないのですが、おそらく空気2L/分、酸素0.5〜1L/分などで行っている事が多いのではないでしょうか?

前投稿でも示しましたが、新鮮ガス流量が増えるほど消費される揮発性麻酔薬の量は増えていきます。そこでデスフルランを用いる濃度が高いことと、薬価が問題となってきます。

デスフルランはオピオイド(レミフェンタニルなど)と併用して用いる場合、通常0.7MAC(つまり呼気濃度として4%強)程度で用います。セボフルランだと1〜1.5%程度を用いる事が多いと思いますので濃度として3〜4倍を必要とします。

薬価が1mlあたり42.5円です。セボフルランは先発品は47.3円ですが後発品は36.8円です。1mlあたりの薬価はそれほど違いがあるわけではありませんが、用いる濃度が前述の通り3〜4倍のためコスト的には不利になります。

それが総流量を極力抑えた低流量麻酔が行われる事が多い理由です。低流量麻酔を行うには色々と注意点がありますが、それは改めて取り上げます。

 

オススメの薬物ハンドブック