前回の最後でも少し載せましたが今回は周術期のアナフィラキシーの原因物質について簡単に説明していきます!(手術室にハチ🐝はいないはずなので)
はじめに「まとめ」
- 筋弛緩薬が最も起こしやすい!しかも重症になりやすい!やばい!😫
- フルーツ系のアレルギー患者ではラテックスアレルギーを疑え!
- ラテックスアレルギー患者の手術は朝一で(できれば手術室をラテックスフリーの環境にしよう!)
- 抗菌薬はセファロスポリン系やペニシリン系が多いよ。
- 局所麻酔薬にアレルギーがあります、という患者さんには詳細な聞き取りを(ほとんどは心因性)
第1位:筋弛緩薬!
手術室ではプロポフォールとならんで毎日毎日来る日も来る日も飽きもせず(飽きてるけど💣)使用している基本薬物の1つですね。
そんな筋弛緩薬は周術期におけるアナフィラキシーの原因物質の第1位です!!幸い私はくらったことはないんですが、関連の病院では生じたことがあります。前述したように1〜2万例に1回は起きる可能性があるため、ある程度の規模の病院だと1年に1件は起きている計算になります。夜中の人手の手薄な時に起きると大変です・・😫
筋弛緩薬によるアナフィラキシーはIgEを介するⅠ型のアレルギー反応が多いですが、他の物質によるそれよりも重症になる傾向があります。こわっ。
どの筋弛緩薬で起こりやすいん?
脱分極性筋弛緩薬(スキサメトニム:サクシン®)、非脱分極性筋弛緩薬(ロクロニウム:エスラックス®など)問わず、筋弛緩薬には第4級アンモニウムという構造があり、これが抗原決定基になると考えられています(マニアックな人は筋弛緩薬の構造式を見てみてください。私は興味ありませんが!^^;)
つまり、ある筋弛緩薬でアナフィラキシーを起こしたことがあると、その他の筋弛緩薬でも起こしてしまう可能性があります(交差抗原性と呼びます)。そのため本物の筋弛緩薬アレルギーの患者さんの麻酔ではそのことを考慮して麻酔計画を立てる必要があります。
筋弛緩薬の中ではスキサメトニウム(最近はほとんど使用されていないと思いますが)、ロクロニウム(いつも使ってるやん)で起こしやすいとされています。気をつけましょう。ただ、麻酔導入時〜手術開始までに生じるアナフィラキシーで一つの救いは「気管挿管は行われていることが多い」ことでしょうね!循環管理に集中できるので(それでもいやだけど)。
また、筋弛緩薬の拮抗薬であるスガマデクスも10万例あたり2.8例の報告(90%が投与後10分以内に発症)があるようで、注意が必要です。発売当初はほとんどアナフィラキシーを起こすことはない!って豪語されてましたんですけどね・・・。そのためスガマデクス投与後は退室までの間(10分以上はあるでしょうから)しっかり観察する必要があります。
ちなみに・・
ちなみに抗原決定基と考えられている第四級アンモニウム基ですが、これ化粧品や白髪染めなどの毛染め材にも含まれているんですよね!。
そのため常用することでいつの間にか感作されてしまい、それまで筋弛緩薬を使用したことが一度もないにもかかわらず麻酔時にアナフィラキシーを起こしてしまうことがあります。これが男性よりも女性に多い原因とも言われています。実際筋弛緩薬によるアナフィラキシーの症例のうち17%は全く麻酔や筋弛緩薬の使用経験がないとされています。
第2位:ラテックス
ラテックスの定義はWikipediaによると、「水中に重合体の微粒子が安定に分散した系(乳濁液)であり、自然界に存在する乳状の樹液や、界面活性剤で乳化させたモノマーを重合することによって得られる液(専門用語は無視笑)」のことで、一般的には「ゴムノキ類から採取した樹液の代名詞」です。
最近では対策のおかげでラテックスアレルギーの頻度は急速に低下しているようです😄
ここは試験でもよく問われるところです。
ラテックスアレルギーは大きく3つに分けられます。
即時型アレルギー(アレルギーのⅠ型)
いわゆるアナフィラキシーです。前述の通り一番怖いやつです(多くは数分以内に発症)。気道の浮腫や高度の低血圧などを生じるため、迅速な対応が求められます。
接触性刺激性皮膚炎
手袋による有害な反応の80%を占めます。ラテックスやその他の化学物質による皮膚への直接的な作用によります。実はこれは免疫系が関与するいわゆる真のアレルギーではないのですが、この状態では皮膚の正常な構造が損傷を受けます。この状態でラテックス手袋を用いるとラテックスに感作されやすくなり、真のアレルギーに移行していく可能性があります。
遅延型アレルギー(アレルギーのⅣ型)
ラテックスによるアレルギー反応の中では80%以上を占めます。ウルシにかぶれたような状態になりますが、実はラテックスそのものよりも手袋の製造過程で使用されている化学物質により生じるとされています。
遅延型の反応のため、接触から6時間〜72時間後に皮膚炎〜水疱形成を認めます。
どんな人がラテックスアレルギーになりやすいん?
ここは専門医試験や周術期管理チーム試験でもよく問われるところです。大まかに下記の表にまとめます。
要はラテックスに頻回に曝露されているか、アレルギー体質であるということですね。
- 頻回に手術を受けている患者(脊髄二分症や先天性泌尿器疾患患者など)
- 仕事上ラテックス手袋を頻回に使用する人(医療従事者、美容師、ラテックス製品の製造業者など)
- 枯草熱、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピーの既往がある患者
- アボカドやキウイ、バナナ、クリなどにアレルギーを持つ患者
職業では特に医療従事者が多い(なんと70%!)とされています。ラテックスフリー手袋が広がっている現在では減少傾向にある様ですが、まだ使用している病院などで手荒れがひどいのに無理にラテックス手袋で機械出しなどを繰り返していると危険ですね!
私の知り合いの看護師さんでも真のラテックスアレルギー持ちの方がいて、常に細心の注意を払って仕事をしていました(エピペン持参で)。
ラテックス-フルーツ症候群ってなんやねん?
一部のフルーツ類はラテックスと交差抗原性を持つとされています。特に頻度が高いものは以下のものです。
- アボカド🥑
- キウィ🥝
- バナァナ🍌
- くり🌰
- トメィト🍅
- パパイヤ
- ポテト🍟
その他パイナップルやマンゴー、メロン、パッションフルーツなどたくさんのフルーツ類が交差抗原性を示すとされていますが臨床的な頻度は低いようです。
ラテックスアレルギー患者の手術はどうするん?
まずは術前外来や診察時に適切に質問をして可能性について把握しておく必要があります。ただし、「ラテックスにアレルギーがありますか?」とだけ言っても通じない人はたくさんいますので、具体的なもの(ゴム手袋など)を例に挙げて質問することが重要です。
アレルギーに関してはひどいものでない限り実際に聞かないと自覚していない場合もありますので・・😔
- ゴム製品(手袋や風船、コンドームなど)で皮膚がかぶれたり、ひどいアレルギーを起こしたことがないですか?(あればその症状)
- 特定の果物(バナァナ、キウィ、アボカドなど)にアレルギーがありますか?(口の中が痒くなったりヒリヒリしたり、呼吸困難になったり)
- (事前の既往歴から)自己導尿を行っていますか?(または行っていましたか?)
※ラテックスアレルギーの検査に関してはアナフィラキシーの確定診断などと合わせて別投稿で行います。
ラテックスアレルギー患者の手術室における対応
- 手袋だけでなく物品も全てラテックスフリーのものを使用しろ!
- 原則朝一に手術をしろ!
- 他の部屋でもパウダー付きラテックス手袋は使うな!ラテックスが飛んでくるよ!
- ラテックス手袋を使用した部屋でラテックスアレルギーの患者の手術を行う場合は最低6時間は時間を空けてからにして!
完全に手術室がlatex-safetyな環境になっていればそれほど意識する必要はないのかもしれませんが。古い病院などではまだなかなかそこまでは至っていないようです。
まずは最大限latex-safetyな環境の部屋で手術を行うことが大前提ではありますが、他の部屋でパウダー付きラテックス手袋を使用している場合も注意が必要です。滑剤として用いられているコーンスターチパウダー(とうもろこし澱粉粉)はラテックス抗原と結合することで、空気中をフワフワと漂って容易に吸入されてしまいます。実際にこれでアナフィラキシーを生じることがあります。怖っ!!😭
なのでその様な患者の手術がある場合、他の手術室スタッフもラテックスフリーの手袋を使用するべきです。
可能な限り、朝一の最も飛散ラテックスの少ない時間に手術を行うべきです。それが不可能でもしそのような手袋を使用した部屋で当該患者の手術を行う場合には6時間以上時間を空けて手術を行うべきとされています。
また、浮遊パウダーの流入を避けるため、不必要な医療従事者の出入りは極力避けます(そこの研修医!出たり入ったりするな!💢)
第3位:抗菌薬
どの抗菌薬が頻度が高いん?
手術室でもお馴染みのSSI(手術部位感染)予防で頻用されるペニシリン系、セファロスポリン系をはじめとするβラクタム系の抗菌薬です。
ペニシリン系とセファロスポリン系は交差抗原性を持つため(第一世代が最も強い)、ペニシリンアレルギーがある患者ではセファロスポリンでもアナフィラキシーを起こす可能性があるため、他の系統の抗菌薬を使用します。
タイミングに注意!
また、手術室に入る前から投与してくる場合には特に注意が必要です。移動中のエレベータの中でアナフィラキシーを起こしてしまった症例もあります・・!
その他
局所麻酔薬
報告はありますが、結論からいうと局所麻酔薬によるIgEを介する即時型アレルギー(アナフィラキシー)の頻度は稀(有害事象の1%)です。
局所麻酔薬に関する有害事象は以下のものがあります。
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- 局所麻酔薬中毒😥
- 添加されたアドレナリン(いわゆるE入り)によるもの(不整脈や血圧上昇)
- 心因性の反応(いわゆる迷走神経反射で気を失ったなど)😄
- 真のアレルギー(実はバイアルに含まれている保存薬やラテックスによるものが多い)😫
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術前によく話を聞くことで真のアナフィラキシーや局所麻酔薬中毒か、それとも心因性の反応かどうかは区別がつくことがほとんどです(特に皮膚粘膜病変の有無が重要)。
よく訴えがあるのは、歯医者などで局所麻酔をして気分が悪くなった、血圧が下がった、徐脈になった、気を失ったなどです。
造影剤
手術室で見たことはないのですが、造影CT撮影時や造影剤を用いる手技(透視下の血管造影など)にハリーコールがかかることがありますね。アナフィラキシーでもショックになるような致死的なものは発症までの時間が短く(数分〜20分以内)、撮影室や移動中に起こる可能性があり危険です。
リスクとして高齢や造影剤の頻回(5回以上)が挙げられており、その様な患者では常に留意しておく必要があります。ちなみに投与前のステロイド投与は現時点では有効とも無効とも言えないようです。
もしみなさんが上記のような場面に遭遇した場合は、すぐに対処に取り掛かると同時に、ハリーコールをかけて人手を集めましょう!
次回はアナフィラキシーの症状について取り上げます!